EVIL CAR


やっと今週も終わり。寧ろ本懐の週末は意図的に予定を排除し、徹底的に部屋に篭る。
今週は公私共に色々とあって、具体的に今何かがある訳ではないが、先々の話がいくつか。抱えていた鬱屈への打開の可能性、と解釈出来る様な事もあれば、より荊棘への道へ進む様な暗い影も見え隠れする。しばし考えてはみたが大して選択肢はない。自分の意志でどうにかなる事は本当に少ないが、自分の意志を伝えられる事があればそれは伝えておこうかな、と思ったりはする。まして絵だの写真だの、自分だけで出来る事など何と容易い事か。誰も困らんし。
俺の務める会社は八王子と日野の間にある石川工業団地という地域で、幾つか製造業のでかい本社屋が集まっている。まとまった電力を供給する為に、どっかのダムから大きな送電線が伸びていて、会社の近くにはでかい変電所がある。また災害時を想定して、一定区間内に避難地の公園と貯水池がある。元々家も少ない多摩丘陵の外れにはいくつかそういう場所がある。もし、万が一、災害有事の際には都市中心街や居住区にダメージが少ない様に配慮された計画のもと、こういう工業団地は設計されている。
少し北に行った先には福生の米軍基地があるので、会社の上を頭上を爆音を立てて戦闘機がゆっくり飛んでゆく。きっと何も起こらないだろう。根拠なく誰もがそう思って暮らしている。俺もそう思って暮らしている。百万歩譲って何かあったとしても、俺だけは大丈夫だろう、そんときゃそん時だろう、あの娘も大丈夫だといいね、と無根拠に鷹を括って暮らしている。そこに何も問題はない。戦闘機は思いの外大きく、黒い影と大きなノイズを残して日常に消えてゆく。もしかしたらあれは戦闘機などではなく、将来だの社会だの或いは個人だのに纏わり付く何か漠然とした不穏なモノの具現化した影ではないかと、どうでもいい事を考える。
今週はひどく眠かった。うまいんだかうまくないんだかよく解らない複雑な味の飯を食いながら、その眼の前にある全てが面倒臭いなあと思っていた。煙草臭い服はすぐに脱ぎ捨てたかったし、ビールは本来もっと美味しい筈なのにな、と思ったりもした。何かの演技の様に頷きながら、ココロは遠く遥か、手の届かない虚空にヘリウム風船の様にゆらゆら漂っていて、何か良く解らんけど週末は家に篭って絵を描こう、こないだ買った絵の具を試してみよう、と目の前にある事とは微塵も接点のない事を思ったりした。爆音の戦闘機はおでんの大根を車輪にして皿の上で食われるのを待っていた。ほらもう何言ってるか解らないでしょう。
悪い車に乗ったもんだ。車酔いはいつか克服した。多部未華子に長葱で撲殺されたい。赤貝