さよならリグレット

NIKKI続き。
さて連休はひたすらに羽を伸ばしたのだが、とはいえあまりに何もしないのもどうかと思い、少しばかり出掛ける。浜松から西へ60km程、愛知県に入り名古屋までは行かない辺り、岡崎から蒲郡の辺の古刹を巡る。三河と呼ばれるこの地域は浜松も顔負けに平地が延々と広がる閑散地で、しかし一方歴史も深く、なかなか味わい深い寺社仏閣がいくつもある。凡そ観光化はされておらず、渋い散策となるが、それこそ望むところ。
世の中には珍スポット巡りという趣味があって、俺もそこそこに嗜んでいるが、名古屋も含めた三河地域にはそうした物件が多い。結果として、珍寺巡りの様相を呈した小旅。海風こそ寒いが天気は良く、日和には申し分ない。さて浜松から高速で1時間程度で、岡崎に入る。






岡崎・弘正寺。寺自体はこの地域に多い弘法太師を祭ったオーソドックスな寺だが、その広い中庭には、大量の地蔵尊が収められている。これは・・・凄い。凄い、としかいい様がない。この手の、”何かが大量にある”系の珍寺は幾つか経験しているが、どう撮ってよいか判断に苦しむ。まあどう撮ってもそれしか映らないのだけど。しかし視界の殆どが地蔵、っていうのは貴重な体験。さてこの寺、至って真面目な感じで、この光景も(間違いなく奇景ではあるが)信心が為す落ち着きに溢れていた。枯れない様に配慮された造花と、プラスチックの風車の原色が眩しく、そして何処となく儚い。観光っ気は全く無く、ほぼ誰もいない地蔵の群れの中を歩く。






さて岡崎から南へ15km程度、海際の町・蒲郡。ガマゴオリ、と読むのだが何度見ても凄い響きだと思う。そんな蒲郡にはいくつかの珍スポットがあり、何度か回数をかけて訪れているのだけどその続きで、今回は無量寺という寺へ。地元では”ガン封じ寺”として有名らしく、10kmも先からあちこちに看板がある。広さもそこそこ、先程の弘正寺に比べれば多少は人が来る様で、大きめの駐車場なんかもある。さて本堂は至って普通。健康祈願の家族連れなんかが結構いる。その脇に、個人的に好きな一角がある。四国八十八ヶ所を模した小堂が、建物の小脇に点在(というか連立)していて、地味ながらなかなか趣深い。こちらは本堂と違いあまり人気がないが、信心のある人だろうか、ひとつひとつ手を合わせている年配の方がいる。古いクスノキの落とす影の下で、レンガの小堂が静かに際立つ。中には小さな石仏。俺は信心はないが、この落ち着きや佇まいは心惹かれる。
本堂の奥には千仏洞なるものがあって、真っ暗な狭い迷路の様な廊下を進んでゆくと、ボロブドゥール式の磨崖仏(って書いてあった)が見れた。が、真っ暗で写真どころではなかった。本堂にはガン封じ祈願の絵馬が沢山収められていて、この寺の人気が伺える。人の思いを静かに感じられるところが、寺社仏閣の趣深いところかなと、ぼんやり思う。眠い。







さて蒲郡港で魚介を食べ、この日最後のスポットへ。蒲郡の海際にはいくつか温泉街があって、その殆どはバブル期に隆盛したものの現在はかなり廃れているのだけど、三谷温泉という一角もその例に漏れず、大きな旅館が何とか頑張っているものの、観光客の影はなく土産店などは軒並みシャッターが降りたままになっている。その丘の真中に鎮座まします珍スポット、大聖寺大秘殿。一応、寺らしいのだが、どちらかというと秘宝館に近い。昭和の高度経済成長期には、温泉客で賑わったのだろう。今は閑散とした佇まいで、珍妙が故に独特の悲壮感が漂う、一級の珍スポット。
入口で1000円払う。致し方ない。中はコンクリで狭く迷路の様に(一方通行で迷う事はないが)仕切られていて、洞窟の様相。そこに、エロ度高めの石仏(とか石じゃないけどまあそんな感じの有象無象)が沢山置かれている。中は電気が付いていてそこそこに明るいが、狭くて寒くて、あとそこかしこのスピーカーからオリジナル?のやたら黄色い声の変な曲(よく聴くと弘法さんありがとうとか言っている)が延々と爆音で流れていて、俺はこんなところで何をしてるのだろう、という気持ちで一杯になる。珍スポットではよくこの症状が出るが、最近珍スポットに出向いてなかったので、体が慣れてない。もっとも慣れてる方が問題だが。そんなこんなで真面目な仏像の合間合間に、秘仏、モノによっては性器そのものを象った何やらが次々と現れる。すべからく宗教が人の救いを目的とするのなら、色欲がその核にいるのは間違いない。どんな人でも愛欲に悩む。そこが複雑に絡みついて切り離せないものだからどうにも面倒だが、こうして像までこしらえて笑って拝んで時に真剣に祈り申して、そんなもんだよなあ、と思ったり、こんな蒲郡の果ての訳の解らない狭いコンクリの洞窟の奥で巨大な性器を前に何を真面目にそんな事考えてるんだ阿呆なのか俺は、と思ったりした。あと派手に頭をぶつけた。今も瘤があって非常に痛い。
珍スポット独特の(こういう場所では、独特、としかいい様がない疲れ方をする)体力の消耗を感じつつ、この日の散策は終わり。海沿いのバイパスで浜松へ。あとは猫撫でて寝た。別に文章書くのが面倒臭くなったのではなくて、本当にそんな感じの時間の過ごし方だった。夜寝ていると、猫が入ってきて、顔を舐めて起こされるので、今ひとつ寝不足感があるが、多分幸福とはそういうものかも知れない。
さよなら後悔、次の駅では乗り換えがあるけどどうしよう。赤貝