穴を掘る


チッスタスタトンスタッツタタドン。
酒に溺れるとか、自暴自棄に浸るとか、実に愚かな事だと思う。何が愚かって、そんな事しても何も解決しないし、解決どころか気晴らしにすらなるまい。少なくとも俺はならん。その時はいいだろうか。否、そうでもない。結局気にかかって、何をしても結局楽しみきれない。強いて言えば、ただただ塞ぎ込む時間を何となくやり過ごす事くらいにはなるかも知れん。しかしその後に来るのはより大きなぶり返し。そんなんで縮こまっていつまでもいじけて、結局時間と代替の誰かが解決してくれるのをだらしなく待つのか。敢えて、それもいいだろう。しかし絶対的に忘れてならないのは、それが赦されるのは一部の人間だけ、という事実である。俺の様なクソ野郎は泣き痴れる事も醜くわめき散らすことも誰かの優しさに感けて当り散らす事も赦されない。すれば全てを失う。全てを失ったら、それこそ立ち直る事すら出来なくなってしまう。この日々は美男美女のラブストーリーとは訳が違う。では、俺はどうするか。俺にだって痛みはあるし、それに対して対策しなければ心が折れる。はっきり言うがこれ以上傷つくのはもう御免だ。あちこち修復作業ももう嫌だ。
スッタタスタドンステントスッタドン。
そこで俺は穴を掘る。ひたすら、真っ直ぐ下へ下へ、時には気まぐれに湾曲してカーブにエロさを求めたりしながら、自分の気に入る穴を掘る。ひたすら掘る。昔はこの掘る行為にもアラがあった。ヤケになって掘っても無駄な力がかかるばかりで、かえって穴は汚くなったりする。深く息を吸って吐いて、鶴嘴を程よい強さで握り、左手は添えるだけ、ムキにならず、手を抜かず力を抜いて、ただただその穴のあるがままを取り出す様な気持ちで、淡々と掘る。疲れたら一休み。烏龍茶でも飲んで、好きな音楽を聴いて落ち着いたら、また穴へ。穴。エーエヌエー。穴はやがて深まり、日の光も届かない闇の世界へ。そこは暗く、光源がないから肉眼では何も捉えられない。少しだけ恐怖もある。しかし、そこには自分の掘った穴という安堵が必ずある。土はいつも一定の温度で、闇と共に優しく俺を包む。俺の手や足は土に汚れるかもしれないが、それすら時には心地よさも感じながら、無心に穴を掘り続ける。そして出来上がったのがこの胸にぽっかり空いたこの穴です。そう易々と、この穴を覗き見る事は赦しません。何から何まで自分で掘った、ぼくの大事な空白ですから。ほらもう何言ってるか解らないでしょう。
タンスタタッタドンスッタタドタタドン。
しばらくまた穴を掘っていたが、ここ数日はちょっと疲れたし飽きたので、掘る作業はやめて、一旦地表に戻る。白い息を吐きながらコーンポタージュでも飲みつつ、自分の掘った穴を眺め見ている。中々の穴だ。その底はもう見えない。さっきまで自分も潜ってた筈の穴が、まるで底無しの奈落に思えてきて、さて次に潜る時はいつだろう、明日でも構わんけど。なんて思ったりしている。何だこの文章。本当に、ほらもう何言ってるか解らないでしょう。意味なんか何もない。全くどうかしてやがる。穴でも掘るか。多部未華子。赤貝